彼岸へ渡る

般若心経の一番最初に観自在菩薩という言葉がありますが、これが皆様の本心です。迷いを捨てて、本当のことを見る心ができたことを意味するのです。

　観自在の自在というのは、初めからあったものという意味です。自とは初めからということ、在とはあるということです。自在とは初めからあったもの、先天性ということです。

　観自在菩薩というのは、皆様が生まれる前から持っている本心のことです。これは観自在と言ってもいいですし、観世音と言ってもいいのです。

　人間が生まれてきたのは、生きていることを通して、天地万物が展開していることを弁えることが目的なのです。世音というのは、この世の事がらです。それを見るのです。

　観自在は生まれる前の自分の本性を見る。観世音は生まれた後に、生活を通して自分の本性を見ることです。観自在も、観世音も皆様の本性がそのまま言われているのです。

　皆様は般若心経を読んでいますけれど、意味が全く分かっていないのです。仏教のお坊さんで般若心経の意味を説明する人はたくさんいます。文字の説明は少し勉強すれば誰でもできるのです。ところが本当に般若心経の本質そのものを自分自身の命にしている人はいないのです。

　般若心経が日本に来てから千年くらいにもなりますが、本当に自分自身の本性をはっきり見た人はいないのです。

　釈尊は自分の本性を見て空だと言っています。自分自身が生きていることが空だと言っているのですが、これをはっきり言った日本人は一人もいないのです。日蓮も親鸞も、法然、道元、弘法大師、最澄も仏教の説明はしていますけれど、本当の空を自分で実感して、空をそのまま生きた人がいないのです。般若心経の難しさはここにあるのです。

　生まれる前の本心に立って、生まれる前の自分を見て、現世に生きていることが全く間違いだということを、本当に生活ができた人は一人もいないのです。なぜかと言いますと、皆宗教を信じていたからです。

　般若心経は宗教ではないのです。般若心経の一番最初に観自在菩薩と言っていますが、これは人間の本性のことをずばり言い切っているのです。般若心経以外の経典は、人間が書いて人間が読んでいるのです。だから、如是我聞という言葉が、経典の初めに書かれているのです。かくのごとく私は聞いたと書いているのです。釈尊自身の本当の悟りではなくて、釈尊の説教の解釈を経典に書いているのです。

　ところが、般若心経には如是我聞という言葉はありません。初めから本心で言えばと言っているのです。観自在菩薩というのは、本心のことです。本心で言えばどうなるのかと言っているのです。「照見五蘊皆空　度一切苦厄」というのは、人間が本心で見れば人間の考えは、皆間違っていると言っているのです。

　現在の皆様が般若心経を読んでもだめです。分からないのです。仮に字句の説明が分かっても、五蘊皆空を本当に生活することは、現代の人間にはできないのです。現代の皆様はお気の毒ですけれど、聖書によれば今の皆様は全部死んでいることになっているからです。

究竟涅槃

　般若心経に究竟涅槃という言葉があります。涅槃とは、冷えて消えて無くなってしまうことです。自分が消えてしまうのです。現世に生きている間違った人間の生活観念が消えてしまいますと、死なない命が分かるのです。本当に分かるのです。宗教ではないというのは、本当のことという意味です。

　般若心経は、いわゆる仏教ではありません。一切空と言っているのです。仏教の経典に書いてあるようなことが、空だと言っているのです。

　そのように、人間の常識と本心とは全然違うのです。本心は魂のことです。魂の感覚が人間の本心なのです。

　皆様は常識で生活しています。常識は現代文明が提供している考え方です。特に学校教育が、皆様に与えている物の考え方をいうのです。これは生きている間に通用する常識であって、この世を去ってしまえば一切通用しないのです。

　お寺で説いている仏教の説明、キリスト教で説いている聖書の説明は、いくら聞いてもだめです。現世では通用しますが、現世を去ってしまいますと、一切通用しないのです。

　現世を去るのは自分一人ではない。世間一般の人も行くのだから何とかなるのではないかと思われるかもしれませんが、それがとんでもない間違いです。皆様はたった一人であの世へ行くのです。だから怖いのです。

　赤信号皆で渡れば怖くないとばかなことをいう人がいますが、現世の交通信号なら十人ほどの人が一度に渡れば、車の方が止まるでしょう。ところが、この世を去りますと、そんな甘いものではないのです。皆様は一人ひとりで死んでいくのです。全くの孤独の世界に行くのです。完全に一人になるのです。

　今でも皆様は一人ぼっちなのです。皆様自身の気持ちは、自分一人しか分からないのです。自分の息子でも、自分の妻でも、自分の本心を分かってくれることは絶対にないのです。

　今では人間は一人ぼっちで生きています。死んでしまえば社会は消えてしまいます。皆様は完全に孤独になるのです。これは皆様を脅かしているのではありません。冷静に考えれば分かることなのです。

　文明は見せかけだけのものです。学校教育は見せかけなのです。この世における人間生活の知恵は教えてくれます。これは何処までも生活の知恵であって生命の知恵ではないのです。従って、皆様の命のあり方が変ってしまいますと、教育は一切通用しなくなるのです。教育は学校の組織のためにあるようなものです。先生の生活のために学校があるのです。

　教育されている子供たちは、教育によって人間の本心を見失っているのです。人間の本心とは言葉を変えて言いますと、情操になるのです。知能の啓発をすればするほど情操は衰弱してしまうのです。

　大学を出たことによって般若心経の真意が全然分からなくなっているのです。却って学歴のない人の方が、謙虚な態度で見ることができますから、般若波羅蜜多を考えてみようという気がするのです。大学を出た人は、般若波羅蜜多が馬鹿のように聞こえるのです。それは情操が荒廃しているからです。

　教育が人間の情操を荒廃させてしまったのです。その結果、学校内暴力とか、家庭内暴力が頻発するようになってきたのです。日本がだんだん悪くなってしまったのです。道徳的な謙虚さとか、人への思いやりがだんだんなくなってしまった。先生を尊敬する気持ちがなくなっているのです。これは文明の非常に醜悪な現象です。

　その結果、皆様は般若心経が分からなくなってしまったのです。昔の日本人は今ほど愚かではなかったのです。皆様は今、本心を失っているのです。情操が衰弱したために、人間自身の本心が何を求めているのか、自分の魂が何を望んでいるのか分からなくなっているのです。

　だから般若心経をいくら読んでも分からないのです。

　人間の常識は人間の本心に逆らっているのです。皆様は自分の命が考えられないような人間になってしまったのです。これが文明の結果なのです。文明はこういうひどいことをしているのです。

　現世で生活をするためには、教育があった方がいいでしょう。ところが、魂のためには、教育は害悪になっているのです。日本へ西洋文明が入ってきたのは明治時代からですけれど、文明は魂を全く見えなくしてしまったのです。だから、般若心経の話を何回聞いても分からないのです。五蘊皆空が分からないのです。五蘊という感覚が、そのまま現代の日本人の精神構造になっているからです。

　自分の考えが間違っているから、自分の考えを持ったままで魂のことを考えても、絶対に分かりません。

　皆様が今持っている命は、必ず死ぬ命です。ところが、皆様の本心は死にたくないと思っている。本心は彼岸を求めているのです。般若波羅蜜多とは彼岸に渡る心のことなのです。皆様の本心は死なない命、本当の命、魂のあるべき姿を求めてやまないのです。

常識と本心

　皆様の常識と本心は全然違います。皆様の常識は、この世の生活のことばかりを考えています。本心は死にたくないと思っている。死にたくない、死にたくないと思っていながら、他方で死なねばならないと思っている。死なねばならないというように思い込まされているのは、文明のためなのです。文明意識、教育意識のためなのです。

　教育された人間は、頭が洗脳されているのです。頭の中が教育によって造り変えられているのです。だから、本心が分からなくなっているのです。

　しかし、皆様の本心はあります。だから、死にたくないという気持ちからどうしても離れられないのです。

　ところが、死なねばならないと思っている。死なねばならないと思うのは、文明の教育精神なのです。世間の人は皆死ぬのだから、死んだらあの世に両親も、親戚の人もいるだろう。友人もいると思っている。親戚の人がいる、友人がいると思うのは現世に生きている間の気持ちです。

　人の魂は全く一人ぼっちです。人間の命は一つしかないのです。砂糖をなめると世界中の人間は全部甘いと思います。黒人でも白人でも、赤い花を見れば赤いと感じます。そのように、全世界の人間は同じ五官の機能を持っている。これは世界の人間の命は一つしかないことを意味しているのです。

　ところが常識によって個々別々に生活していると、たくさんの人間がいるように見えるのです。ここが人間の愚かさです。五蘊とはそのような間違った考えを信じていることなのです。

　皆様は本心では死にたくないということが、はっきり分かっているはずです。だから、死にたくないという気持ちをはっきり心に据えて頂きたい。死にたくないという本心を本当に持っている人は、般若心経がだんだん分かってくるでしょう。

　般若心経は悟りです。般若心経を本当に会得されますと、成仏するのです。仏になるのです。しかし、仏になっただけではだめです。仏は物事の真相を弁える人格を言っているのです。真相を真相として受け取る人格です。これを仏と言います。例えば、味とは何であるのか。形とは何であるのか。その真相を弁える感覚を仏と言います。これが成仏です。

　しかし、これは命が本当に分かったのではありません。成仏してから本当の命が分かるようになるのです。成仏しなければ本当の命を信じることができません。成仏しない人間が、本当の命を信じることはできないのです。般若心経には悟りはあります。しかし、救いはないのです。そこで、宗教ではない般若心経と、キリスト教ではない聖書の二つがどうしてもいるのです。

　般若心経と聖書は難しいものではありません。当たり前のことです。日本で般若心経を愛唱している人は、一千万人以上もいるでしょう。ところが、般若心経の意味が全く分かっていない。これはどういうことでしょうか。論語読みの論語知らずという言葉が昔から言われていましたが、それよりもっとひどいのが心経読みの心経知らずです。

　般若心経は宗教家によって、うまく利用されてきました。千円を添えてお寺へ送るとご利益があるという迷信を言って、お金を集めているのです。関西ではそれで大儲けをしている寺があります。そういうばかなことをしているのです。般若心経で金儲けをするのはもってのほかです。そういうばかなお坊さんがいるので、般若心経の真意が全く誤解されているのです。

　般若心経が言っていることは当たり前のことです。現在生きている人間は、死ぬに決まっている。だから空だと言っている。そんなことは当たり前です。誰でも知っていることです。ところが、当たり前のことを、当たり前として受け取ろうとしないところに、現代人の迷いがあるのです。

　聖書には何が書いてあるかというと、これもまた当たり前のことです。今年は二〇一八年であるということを書いている。日本の大新聞は西暦の年月日を書き、日本の元号はかっこをして書いているのです。二〇一八年というのはキリスト紀元ですが、これは世界中誰でも知っているのです。これが聖書です。

　ところが、般若心経や聖書の分かりきった原理が全く分かっていない。２０１９年というのが何のことか分からない。なぜ分からないのかというと文明意識のためです。人間文明は魂を殺しているのです。文明は人間の自殺行為をしているのです。

彼岸へ渡る

　彼岸へ渡る上智が般若波羅蜜多ですが、彼岸とは人間の魂のことなのです。魂の実体、内容が分かれば彼岸へ渡れるのです。これはばかみたいに簡単なことです。魂の実体が分かりさえすれば、彼岸へ行けるのです。何でもないことです。がたがた言う必要はないのです。

　此岸とはこちらの岸です。彼岸は向こうの岸です。こちらの岸とは何かというと人間のことなのです。これだけのことです。何でもないことです。

　皆様が自分が人間だと思っている間は、死ぬに決まっています。ところが、自分が魂だということがはっきり分かりますと、死ななくなるのです。

　霊魂不滅という言葉があります。日本人は霊魂不滅という熟語は知っていますけれど、この言葉の本当の意味が全く分かっていない。彼岸とは魂ということであって、魂が分かれば人間は死なない命を見つけることができるのです。

　死なない命と言いますと、非常に難しいもののように思いますが、自分の本体が魂であることが分かれば、死ななくなるのです。魂は初めから死なないものなのです。ところが、今の日本人は魂を知らないのです。大和魂とか武士道魂とか言いますけれど、魂の本当の意味を知らないのです。だから、死んでいくのです。そのくせ人間は死ぬのが嫌であるに決まっている。病気になればすぐに病院へ行くでしょう。ところが、今生きている命が何であるかという簡単なことを知ろうとしない。

　なぜこうなっているのかというと、文明というつまらない思想でごまかされているからです。西欧文明に騙されているのです。私がいう西欧文明は、いわゆる物質文明だからというだけではありません。大体、西欧人は人間が現世で生活することしか考えないのです。これが彼らの常識の基礎になっているのです。即物主義的、または唯物主義的な考え方をするので、肉体的に生きているのが自分だと思い込んでいるのです。

　そのくせ肉体が存在しないということを西欧人が言い出しているのです。物質は存在しない、物理運動はあるけれども物質は存在しないという理論は、中学生でも勉強していることですが、やはり肉体が存在すると思っているのです。

　だいぶ前に亡くなりましたノーベル賞受賞者の湯川氏が、かつて京大教授をしていた時に、「私は学校で学生に物質は存在しない。物体は本来現象であって実在ではないことを教えている。しかし、家庭へ帰ると物質があるような気持ちになってしまう。奥さんがいる、台所がある、ごちそうが並んでいる。どうも自分が教えている学説と、自分の実際的な生活感覚とは矛盾しているように思える。学者として甚だ恥ずかしい」ということを述べていたと聞きましたが、これはいかにも彼らしい発言です。

　実際、湯川氏が言ったように、物理運動は存在するが物質は存在しないのです。これは原理です。原理というものは本当のことだから原理というのです。原子爆弾が製造できたということは、物質が存在していないことを証明しているのです。色即是空とはこのことを言っているのです。

　般若心経は色即是空を二千年以上も前から言っている。これは当たり前のことなのです。現在の物理学の常識から言えば、こんなことは当たり前のことなのです。

　そこで、皆様は人間として物事を考えることをやめて、魂として自分自身を見ることができさえすれば、死なない命の実物を掴まえることができるのです。これは何でもないことです。

日曜日とは何か

　日曜日はイエスが復活した記念日です。イエスが死を破った記念日であって、これを世界中の人間が記念しているのです。そのように意識していなくても、とにかく世界中の人間が日曜日を休んでいる。これはイエスの復活が、歴史的事実であることの証明になるのです。

　イエスが死を破ったということは、誰でも死を破ることができるということです。これは何でもないのです。人間という意識から、魂という認識へ自分自身の精神構造を持っていけばいいだけのことです。ただこれだけです。これだけで人間は死ななくなるのです。魂とは何かと言いますと、五官、生理機能と心理機能の根本です。これが神の言です。

　イエスが死を破ったという事実が、歴史的に証明されているのです。本当はイエスの復活は六千年の人間歴史の中で、最も驚くべき最高の事実です。人間が死を破ることができるということは、人間歴史の中で最も驚くべき重大な事件です。

　これは学問の対象として第一に取り上げられなければならないはずのことです。ところが、現代文明の学問は、イエスの復活を全然取り上げようとしていない。これは学の甚だしい怠慢です。

　今の学は本当のことを知ろうとしていないのです。自然科学には限界があるのです。哲学、政治学、法律学、経済学にも限界があるのです。

　ところが、人間が死を破るということは、人間社会の限界を取り払うということです。人間自身の思考方式を取り払うことができるという重大な指針になるのです。人間が死なないということ、死を破ることができることが事実であるとすれば、現在の文明の基礎概念が変ってしまうのです。そういう重大な問題を、今の学問は全然取り上げようとしていないのです。ただ今の学理学説、教育は間違った概念を踏まえているのです。文明は魂を殺している。人間のことばかりを考えている。魂のことを考えようとしていない。これは非常に不親切であるし、人間の命の根底に甚だしい損害を与えているのです。文明を信じたらだめです。むしろ文明に逆らうくらいの盛んな意気を持って頂きたいのです。

　釈尊は文明に逆らった。これが一切空です。色即是空、五蘊皆空は彼が文明に反抗した精神なのです。

　イエスは人間は皆罪人であると喝破したのです。これがまた、人間文明に逆行している精神です。般若心経も聖書も、両方共人間文明を否定している。しかしこれは人間が知らねばならない本当のことを、はっきり言い切っているのです。

　ところが、現代の宗教はこれをうまく利用して金儲けをしているのです。この日本においてこそ、般若心経という東洋思想の精髄と、新約聖書という西洋思想の精髄の二つが、まとめられなければならないのです。これを日本の宗教はしないのです。般若心経を知らないし、聖書を知らないからです。キリスト教はキリストを知りません。寺のお坊さんは空を知らないのです。

　般若心経は人間が存在することに対して、根本的な疑いを提起しているのです。色即是空は現象世界は存在しないと言っているのです。現象世界は実存しないということは、比較的分かりやすいのですが、空即是色になるとほとんど分からないのです。空の原理の説明ができないと分からないのです。

　般若心経は仏法の思想です。仏教ではありません。般若心経は仏教を否定しているのです。無苦集滅道　無無明　亦無無明尽　乃至無老死　亦無老死尽　と言っていますように、十二因縁という考え方は仏教の唯識論の中心テーマになっていますが、般若心経はこれを否定しているのです。

　人間は常識的に考えています。この世に生まれた人間がこの世に生まれた気持ちで考えている。これは死んでしまうに決まっている人間です。人間は一人残らず全部死んでしまうに決まっているのです。

　そうしますと、死んでしまうとはどういうことなのか。死んでからどうなるのか。これを般若心経は、はっきり書いていないのです。ただ現在の人間の考えが間違っていることを書いているのです。

　現代の日本人は、般若心経を見たり読んだりしていますけれど、その内容をほとんど知らないのです。般若心経は仏教の重要な唯識論とか四諦八正道を否定している。般若心経は、「私は仏教ではありません」と言っているのです。

　仏教の経典はすべて一番最初に如是我聞と書いています。般若心経には如是我聞と全然書いていない。初めから観自在菩薩と言っているのです。

観自在

　観自在の自というのは、初めという読み方と、からという意味があるのです。両方合わせますと、初めからという意味になるのです。初めからあったものを見るのが観自在です。初めからあったものというのは、先天性のことです。皆様が生まれる前からの絶対原理が先天性です。

　天然自然という言葉がありますが、天然ということが初めです。自然が今見ている森羅万象です。天然が自然になっているのですが、般若心経は天然の説明をしていません。

　観自在というのは、初めからあった原理、真理を見たということです。菩薩というのは人間の命の心髄を考えている人、または考えようとして一生懸命になっている人を言っているのです。観自在菩薩というのは生まれる前のあり方を示しているのですが、生まれる前は意識していません。無意識の命です。皆様の人格は無意識の世界から有意識の世界へ生まれ出たのです。

　人格ということが、今の人間には分からないのです。本当の人格を仏と言っていますが、これが今の日本人には分からなくなっているのです。仏という言葉はありますけれど、その内容が分からないのです。

　現在の人間は無明によって生まれてきたのです。何のために生まれてきたのか、何処から生まれてきたのか、死んだらどうなるのか全然分からない。全く無責任な状態なのです。現代の文明人は自分の命のこと、自分の人格のことをほとんど考えていない。そのような無知の状態がほとけてしまうのです。なくなってしまうのです。これを仏と言うのです。人間は死んでいくに決まっている命を、自分の命だと考えてそれにしがみついている。いくらしがみついても、死ぬに決まっているのです。

　人間の命は、人間が造ったものではありません。これは皆様の人格を見れば分かるのです。皆様の人格は恐ろしく尊いものです。天然自然の根本原理が皆様の人格の原理になっているのです。

　太陽の輝きは、宇宙生命が物理的なエネルギーの形をとって、私たちに現われている。これが太陽光線であり、暖かさであり、明るさなのです。暖かいこと、明るいことが太陽光線のエネルギーが何であるかを示している。おのずからの原理をそのまま現わしているのです。

　太陽のエネルギーのおかげで地球は生きていますが、太陽が直接地球を照らすことになりますと、地球の温度は四千度から五千度になるでしょう。そうすると、とても人間は生きていられないのです。生きているどころか人間は燃えてしまいます。この強烈なエネルギーを大空が中和している。地球の周囲に大空があるのですが、この大空のおかげで人間の生存の環境が保たれているのです。

　一体、大空というのは何であるのか。どうして大空があるのかが、現代文明では説明できないのです。太陽と大空と地球の三つの関係を、天然、おのずから、神というのです。神と言っても、天然と言っても、おのずからと言っても同じです。これが宇宙の大生命です。

　宇宙の大生命を人格的に表現しますと神になるのです。神の人格の本体がペルソナです。皆様の人格は神のペルソナにそっくりです。皆様は神のペルソナとそっくりの人格を持っているので、時々あわて者が自分は神だと言い出すのです。そう言い出すのも無理はないのです。神のペルソナと人間の人格は、実質的には同じものだからです。

　人間は宇宙の大生命を全然知らないのです。現世に生まれてきて八十年か九十年この世にいて、人間の人格は神だという理屈のきれっぱしを信じて、自分は神の子だと言っている。これは大間違いです。日本の神道にはこういう間違いがあるのです。日本の神道がいう神は本当の神ではありません。人間が造った神をいうのです。例えば、乃木希典を乃木神社で祀っている。東郷平八郎を東郷神社で祀っているのです。神さんのようにして祀っているのです。ちょっと傑出した人物を神に祀りあげるという習慣があるのです。自分より少し上の人が神になるのです。

　皆様の本当の人格はそんなものではないのです。天然の本質、天然の実質が人格的に現われたものが皆様の人格なのです。皆様の理性の働き、推理判断の微妙な働き、記憶能力のすばらしさを考えてみてください。皆様の人格が持っている力は、驚くべきものですが、これは皆様が造ったものではないのです。ところが、皆様は人格を自分の気持ちで勝手に使っている。自分が生きている、自分の自由があると考えている。

　ある雑誌に有名人が幸福な結婚をしたと言っていましたが、これがおかしいのです。結婚に幸福などあるはずがないのです。結婚すれば悪くなるに決まっているのです。性欲を満足すれば悪くなるばかりです。セックスの原理を知らないでセックスを実行している。それが間違っているのです。

　人間は人格というすばらしいものを持っていながら、それを自我意識によって勝手に用いている。その責任を追及されるに決まっているのです。

　この世に生きている人間は、必ず死にます。これは人間の人格を知らないからです。皆様の人格は宇宙人格の一部が人間となっているのです。宇宙人格とは神のことです。神の人格が人間として現われているのです。

　だから、人間は神を信じることができますし、信じないこともできるのです。犬や猫は神を信じることもできないし、信じないこともできないのです。人間は神と喧嘩することができる。神の味方になることもできますし、神の敵になることもできるのです。

一切空

　釈尊は現世で生きている人間の最高の悟りを見せたのです。現世の人間は一切空である、間違っているということが、釈尊の悟りの結論です。これが今の日本にはないのです。釈尊の教えは仏法であって、仏教ではないのです。日本にあるのは仏教です。日本にあるのはすべて仏教の教祖が造った宗教です。

　釈尊は一切空と言っています。般若心経には釈尊の思想がはっきり出ているのです。空というのはすばらしい思想ですけれど、今の日本人には分からないのです。昔の日本人には少しぐらい分かっていたのです。生あるものは必ず死する。形あるものは必ず壊れると言ったものです。

　地球という形のあるものは、必ずなくなるのです。地球は消えてしまうのです。地球は物理的存在ですから、物理構造が変化すれば消えてしまうに決まっているのです。こういうことを土台にして考えることを悟りと言うのです。今の日本にはこんなことを考えている人はいないのです。

　物理的に存在するものは、物理的に消滅するのです。皆様が住んでいる大地も地球がある間はあります。しかし、地球がなくなれば大地は存在しないのです。

　これを般若心経は色即是空と言っています。色即是空という言葉を本当に信じている人は、今の日本には恐らく一人もいないでしょう。文明があればそれでいいと思っているのです。ところが文明は人間の思想によってできたものであって、人間自身の思想によって人間自身が騙されている状態が文明なのです。

　人間は自分が生きていると思っています。やがて、心臓が止まるに決まっている。必ず死ぬに決まっているのです。死ぬに決まっている人間のことを自分だと思っている。死んでしまうというのは、現在死んでいることを意味するのです。現在死んでいる自分のことを自分だと思っている。人間はこういう愚かなことを平気でしているのです。これが文明というものなのです。

　日本の高校や大学で教えている理屈が何処まで通用するのでしょうか。人間の心臓が止まれば絶対に通用しないのです。ところが、人間の人格は宇宙構造の原点から来ているのです。これは死ねないものです。これを霊魂不滅と言います。

　人間は現世で心臓が止まれば死にますが、皆様の人格は永遠に生き続けなければならないのです。そうすると、どんな状態で生き続けるかが問題なのです。苦しん、で苦しんで、しまったと思って生き続けるか、神と共に生き続けるかどちらかなのです。

　今、皆様が自分だと思っている人格は、真っ赤な嘘の人格です。自我意識の本質は、全くの外道です。悪魔です。

　人間は欲望を満足することが幸福だと思っている。欲望は満足させればさせるほど、だんだん太っていくのです。その結果、人間の魂は殺されてしまうのです。死んだらどうなるのか。人格の尊さを知らずに生きていた人は、死んでからその責任を徹底的に追求されるのです。これは恐ろしいことです。

　現世に生きている間は、本当に苦しければ首を吊って死んでしまうという方法がありますが、死んでしまえば首を吊ることもできないのです。そのように、人間の霊魂がこの世を去ってしまいますと、死ぬことができない所へ行くのです。そこで、しっかり苦しめられるのです。徹底的に苦しめられるのです。持っていた人格を泥まみれにしていたその責任を追求されるのです。

　人間は文明のために完全に騙されているのです。これがユダヤ文明です。ユダヤ主義とはこういうことなのです。ユダヤ主義を正当に知ろうと思えば、地球存在の根本原理を知らなければならないのです。

　人間の人格は、地球存在の根本原理よりも尊いものです。神の人格と同じものです。このような人格を持っていながら、自分が生きていると思っている。これはとんでもない間違いです。

他界

　この世を去るのは死ぬのではなくて他界するのです。皆様の魂は、現世で勉強をしているのです。何の勉強をしているのかと言いますと、命の勉強をしているのです。そして、命の勉強が終わったら、また、終わらなくてもこの世から消えなければならないのです。

　皆様は率直に言いますと、いつ死ぬか分からないのです。年寄りであっても若くても、人間の命は全く分からないのです。

　命はいつなくなるか分からない。この世の生活がいつ消えるか分からないということを、真面目に考える人がめったにいないのです。むしろそういうことを考えないようにしているのです。そういうことを考えるのは、縁起が悪いと言って、死ぬことを真面目に考えないようにしているのが、世間一般の風潮です。

　これは気の毒なことです。死を真面目に考えた方が安心できるのです。死はじっくり目の前において考えますと、実は自分の命に対する見方が間違っているから死があるということが分かってくるのです。

　命は二つありまして、死ぬに決まっている命と、死なない命があるのです。ところが、日本人は百人が百人、千人が千人共死ぬに決まっている命を、命だと思い込んでいるのです。命に対する知識が全くないのです。命とは何かということをまともに考えようとする人が、日本には全くいないのです。先祖代々死んでしまうに決まっている命を、自分の命だと思い込んできたのです。

　そこで、宗教にしがみついて助かろうとするのです。そういうことをするより、まず命についての見方を考えたらいいのです。死ぬに決まっている命を、自分の命だと思い込んでいる人は危ないのです。

　皆様は現在生きていますから、命の見方を変えることができるのです。命の見方を変えさえすれば、自分自身の本当の姿をもう一回見直すことができるのです。現在の世の中は死んでしまった人間が造ったものです。六千年間の人間文明は、死んでしまった人間ばかりが造ったものです。ですから、この世の中の常識を信じていますと、死んでしまうことになるのです。死ぬのは嫌だと言いながら、死んでしまわなければならないことになるのです。

　これは全くばかなことです。日本人の世界観が間違っているのです。皆様の命が間違っているのではなくて命に対する見方が間違っているのです。死ぬに決まっている命をなぜ自分の命だと思うのでしょうか。皆様は死にたくないと思っているでしょう。そう思っていながらなぜ現在の命を考え直そうとしないのでしょうか。

　般若波羅蜜多は向こう岸へ渡る知恵であって、向こう岸へ渡るということは死なない所へ行くことなのです。これは宗教ではないのです。般若心経を宗教扱いしているから間違っているのです。日本の仏教信者、お坊さんの中で般若心経を自分の命で経験している人は一人もいないのです。

　般若心経は人間の考えが間違っていると、はっきり言っているのです。仏教のお坊さんが仏教について考えていることが間違っているのです。仏教という宗教があることが間違っているのです。

　釈尊は五蘊皆空をはっきり言っているのです。般若心経の中心テーマは五蘊皆空ですが、五蘊というのは人間の知識、常識の一切をいうのです。皆様の記憶、経験、物の考え方は全部五蘊の中に入るのです。これが間違っているのです。世の中の常識、習慣、社会通念は五蘊です。

　皆様は五蘊で生きています。だから、死なねばならないことになるのです。命に対する考えが根本から間違っているのです。

　宗教が間違っています。仏教が間違っているのです。どの宗派が悪い、この宗派が悪いというのではありません。仏教、キリスト教、あらゆる宗教が間違っているからです。本当の命を提供する準備がなくて、神とか仏とか言っているのです。

　般若心経を読んでいる人は日本にはたくさんいるでしょう。しかし、般若心経の本当の意味が分かっている人がめったにいないのです。仮に般若心経の意味が講義できても、五蘊皆空を実行している人は一人もいないでしょう。これが現在の日本の社会状勢なのです。

命を知らない日本人

　現在の日本人は命を全く知らないのです。生きていながら命が分かっていないのです。だから、損得の問題ではなくて、現在の日本人の命に対する見方が根本から間違っていると言わざるを得ないのです。

　日本人の命に対する見方が間違っているのです。新しい世界観が必要です。新しい世界観というのは死なない命を見つけることです。

　例えば菊の花があるとします。菊の花として咲いている命は、地球の命がそのまま現われているのです。太陽の助けによって土の命が花になって現われている。これは死なない命なのです。太陽光線も死なない命を光線という形で現わしているのです。

　命は死なないものです。死ぬ命は仮の命であって本当の命ではないのです。世の中の人々が考えている命は本当の命ではありません。本当の命ではないものを命だと勝手に思っているのです。

　現世で人間が生きているのは命ではないのです。仮の命で現世の生活を経験しているだけなのです。経験していてもその経験の仕方が悪いと、本当の命を認識することはできません。五十年生きている、六十年生きていると言いますけれど、結局命の実体が分からないままで、死んでいかなければならないことになるのです。

　死ぬとどうなるのか。他界するのです。他界とはどこへ行くのか。冷えて真っ暗な世界へ行くのです。冷暗の世界へ行くのです。そこでは、皆様の思想が凍結します。そうして、地獄の門が開くのを待っているのです。凍結するだけならまだいいのですが、凍結した後にある年代が過ぎますと、地獄の門が開かれるのです。これが恐いのです。本当に恐いのです。

　地球の歴史には始まりがあって終わりがあるのです。地球の歴史はやがて終わります。人間文明はやがて終わります。

　現在の文明は命の本当の値打ちを知らない文明です。命の値打ちを知らない人間ばかりが七十六億人もいるのです。皆様が死んで冷暗の世界へ送り込まれると、時間がなくなります。空間もなくなるのです。冷凍した暗黒の世界です。それからが恐いのです。

　皆様が現世で命の見方が間違っていた。それについての責任を追求されるのです。死んだらしまいだと思っていると、とんでもないことになるのです。皆様の肉体は死んだらしまいです。ところが、霊魂の苦労はそこから始まるのです。

　宗教は魂のことを全然教えないのです。神とか仏とか言いますが、宗教でいう神や仏は人間が造った観念です。人間の頭で考えた観念を仏像にして拝んでいるのです。そんなものは神でも仏でもありません。

　命に対する見方が間違っていることが、皆様の根本的な欠点です。だから、何のために生きているのか分からないのです。

　皆様は世間並の考え方を呑み込まされているのです。日本人は生活のことは一生懸命に考えます。自分の家庭のこと、商売のこと、仕事のことは一生懸命に考えますが、命のことを全く考えようとしないのです。こんなばかなことがあってもいいのでしょうか。皆様は生活のことよりも命のことを重大に考えて頂きたいのです。命のことを熱心に考える気持ちさえあれば、生活は勝手にできるのです。お天道さんとご飯は付いて回るに決まっているのです。真面目に生活をする気持ちがあれば、食べていけるに決まっているのです。

　現在生きている命は、やがてなくなる命に決まっているのです。今生きている間に、死なない命を見つけなければならない責任があるのです。自分の霊魂の責任を果たさなければ、死んだらひどい目に会うでしょう。

　人間がこの世に生きているのは命の勉強をするためです。どうして勉強するのかと言いますと、例えば、太陽が輝いています。花が咲いています。これが先生です。六十年も七十年もこの世に生きていれば太陽や花を嫌というほど見たでしょう。花が命を示しているのに人間はそれを見ても分からない。人の心が素直ではないからです。

本当の神

　般若波羅蜜多を実行することが本当の仏です。本当の神とは何かと言いますと、現在皆様の心臓を動かしている力が本当の神なのです。皆様の心臓が動いているということは、神が皆様と一緒に生きているということなのです。だから、その気になれば神を見つけることは何でもないのです。

　まず般若波羅蜜多が必要です。今までの常識をやめるのです。そうしてもう一度、自分の命を考え直してみようという真剣な気持ちを持つこと、これが般若波羅蜜多です。

　色即是空、空即是色とあります。空が色になっている。色は物質です。形とも言えます。色即是空は形即是空と言ってもいいのです。空はからっぽではなくて目に見えない偉大な力を言うのです。空が花になって現われている。空とは死なない命のことです。

　本当の命は空です。死ぬに決まっている命を色と言うのです。色の命ではなくて空の命を掴まえることが般若心経の目的です。ところが、般若心経だけではこれができないのです。

　般若心経をいくら読んでも、命をどうして受け取ったらいいのか分からないのです。般若心経には命という字が一字もないのです。空という字はあります。これは命の方向を示す言葉でありますが、命そのものではないのです。そこで、宗教ではない聖書をどうしても勉強しなければならないのです。

　日本人は聖書を考え違いしているのです。私がいう聖書は、キリスト教のテキストではありません。キリスト教を非常に嫌がる聖書です。キリスト教は、はっきり間違っているという聖書です。この聖書にはイエスが死を破ったことが正しく書かれているのです。このことを素直に勉強すればいいのです。

　現在、皆様は生きているという誠に不思議なことを経験しているのです。何が不思議と言いましても、私たちが五官の働きによって、現実的に時間、空間という奇妙なものを経験している。実感的に、また実験的に経験している。これは大変なことをさせられているのです。

　ところが、現代文明はそういう命の不思議さについては一切考えようとしない。ただ自分の利害得失だけを考えている。こういうだらしがない状態に落ち込んでいるのです。

　私たちは本質的には不滅の命を持たされていますが、現在人間が生きている状態は終わるに決まっているのです。物理的に構造されているものは、耐用年数があるに決まっているのです。自然現象とは耐用年数が絶対的に存在する現象のことです。

　皆様の肉体の耐用年数は八十年か九十年ぐらいのものです。長くても百年前後です。しかし、皆様が現在経験している命の内容は、不滅の内容を持っているのです。

　人間は霊魂不滅という言葉を常識的に知っています。霊魂不滅という意味は何となく分かるのです。ところが人間の霊魂は不滅であるから恐ろしいのです。死んでしまいになるのなら簡単です。心臓が動かなくなったという事態が現われて、人間の命と全く関係がなくなるのならいいのです。皆様の理性と良心はそうはいかないのです。

　皆様の理性や良心の原点は不滅から発生してきたものなのです。生きているとはどういうことかを簡単に言いますと、二つの面があります。皆様は生まれたいと考えて生まれてきたのではありません。そうすると、生まれてきたことが既に皆様の意志ではなかったのです。

　ところが、皆様は自分の意志で生きています。これがおかしいのです。宗教はこういうことを具体的に、明確に説明しないのです。神や仏を信じると言いますが、一体、神や仏は何者なのか分からないのです。日本には神道のような神があります。キリスト教にはキリスト教の神があります。仏教には仏があります。それぞれ皆、神、仏があります。

　仏教は何千という宗派に分かれています。キリスト教は何百という派に分かれています。何をしているのかということです。

　宗教は善かれ悪かれすべて情報です。情報とは誰かが何かを経験して、それをいいと考えて発表した。これが情報です。専門学がそうなのです。誰かが何かを発見して、それが学問になっている。それが絶対となっていますけれど、部分的には絶対と言えるでしょう。しかし、人間の魂は部分的なことだけでは済まないのです。

　皆様は自分で生まれたいと思ったのではないにも係わらず、生まれてきた。そうして、自分が生きていると思っています。しかし生きるということは、皆様の自由意志に基づかないのです。生活現象としては、自由意志に基づいて生きていますが、命が分かっていないのです。

生きている

　生きているというのは、現実に命を経験していることなのです。命を経験しているのなら、命の実質、実体が分かっていなければならないはずなのです。ところが、生きていながら命が分からない。だから、死んでしまうことになるのです。

　生きているという事実において命をしっかり経験していて、命の実質、実体をはっきり捉えていれば、死ぬはずがないのです。

　命は死なないものです。生命の生は大木が大地に生えている状態を象徴したものです。生とは死なない命を現わしている。生を皆様は現に経験しているのですが、その内容が分からない。

　人間は生まれたいと思って生まれたのではない。何かの意志によって生まれたのですが、その何かが分かっていない。従って、皆様の命の原点と、現在生きている状態とは一致していない。命の原則と現在のあり方が一つになっていないのです。そこで、死なねばならないことになるのです。

　宗教はこういうことを言いません。宗教には命がないのです。宗教はすべて教義を教えています。これは現世に生きている間は通用しますが、死んでしまえば一切通用しない所へ行くのです。宗教と全く関係がない世界へ行くのです。科学も法律も死んでしまえば何の関係もないのです。そうすると、皆様の魂はどうなるのでしょうか。これが大問題です。

　宗教は人間の魂の勉強についてのほんの入り口になるのです。全く嘘とは言えないかもしれませんけれど、ほんの入り口であって家の中にまで入っていないのです。魂という言葉でさえも宗教では明確に説明できないのです。

　イエスは宗教家ではなかったのです。キリスト教はイエスを教祖のように拝んでいますが、これは全くイエスをばかにした話なのです。イエスは大工の倅でありまして、絶対に宗教家ではなかったのです。宗教が間違っていることを徹底的に痛撃したのです。その結果、ユダヤ教の宗教家によって殺されたのです。宗教は間違っていると厳しく攻撃したので宗教家に殺されたのです。

　宗教は営業です。皆様が勉強しなければならないことは、生きているという事実です。この事実を掴まえればいいのです。皆様の五官が肉体的に作用している状態を魂というのです。五官が肉体的に働いている状態が何なのかということです。これが生きているということなのです。これが魂です。

　皆様は自分の意志によって生まれたのではない。これは、はっきりしているのです。自分の意志によって生まれたのではないとすると、誰かの意志、何かの意志によって生まれたことになるのです。そうしますと、生きていることの根本原理は、皆様の力とは何の関係もないのです。生きていることの根本が、皆様とは関係がないのです。

　皆様は太陽を造ったのでもないし、空気や水を造ったのでもない。もちろん自分の肉体を造ったのでもない。皆様はこういった大自然の恩恵によって生きています。そうすると、大自然の実体とは何なのか。これが分からずに自分の意志だけで生きていると考えても、現実に人間の肉体は大自然のエネルギーによらなければ、生きていられないのです。

　そういうことを現代文明は全く無視している。つまり現代文明は魂を殺しているのです。人間が生きている本当の姿を認めようとしないのです。皆様は生きているという事実と一分間でも別れることはできません。皆様にとって生きているという事実は、絶対的な基礎なのです。この絶対的な基礎を文明は認めようとしないのです。

　現代文明は皆様が生きているという非常に明瞭な事実について、一言も説明しようとしないのです。これがユダヤ主義の文明なのです。白人社会はユダヤ人によって指導されています。ユダヤ人のエネルギーや考え方がなかったら、現代文明は現われないのです。

　生きているという事実に対して、人の命の事実に対して全然説明しようとしない文明に惚れ込んではいけないのです。現代人が文明に惚れるというのは、命に対する大欠点なのです。

　やがて、皆様の命は終わるに決まっています。その時どうしますか。文明は皆様の命に対して一切の責任を持ちません。専門学は皆様の霊魂に対して何の力もありません。そこで、宗教や文化論ではない本当の意味での命とは何か、人間が現実に生きている事実をどう考えるかということを、真剣に考えなければならないのです。

　魂の目を開く、いわゆる心眼を開くためにはどうしてもボランティアが要ります。自分で勝手にするわけにはいきません。自分で開かれる人はほとんどいないでしょう。そこで、私が魂のボランティアをしているのです。

明けの明星

　釈尊の場合は苦労しているのです。宗教が頼りにならないことが分かって、宗教を捨ててしまったのです。そうして、菩提樹の下でゆっくり休んで悠々たる座禅の状態に入った。四十一日目の早朝に、明けの明星という不思議なものを見たのです。

　その結果、人間が生きているのは間違いだ。人間が生きている事実がないことを悟ったのです。目で見ているとおりの時間や空間が存在するのではないことを悟ったのです。彼は人間の命の真諦を見極めたのです。そして、自分が生きている事情は、明けの明星に原因があることが分かったのです。

　イエス・キリストは新約聖書のヨハネの黙示録で「私は輝く明けの明星である」と言っています（22・16）。

　このことが宗教家にはどうしても分からないのです。釈尊が明けの明星を見たのはどういう意味なのか、仏教家で説明できる人がいないのです。釈尊の悟りの内容が日本では全然分からないのです。

　日本の宗教はどうしてできたのか。日蓮宗は日蓮の情報です。浄土真宗は親鸞の情報です。浄土宗は法然の情報です。真言宗は弘法大師の情報です。それぞれのお祖師さんが情報を発表して、それに基づいて宗派ができたのです。これが仏教です。

　釈尊が悟ったのは仏教ではない。仏法です。仏法というのは法を悟ること、法の実体を捉えることです。人間を救うとか、人間にご利益を与えるというのとは違うのです。

　釈尊は、自分自身が存在していることが空であることが分かったのです。こういう考え方が日本にはありませんが、般若心経はそれを書いているのです。般若心経は釈尊の本当の内容を、論理的に少し説明しているのです。だから、般若心経は宗教ではありません。これを一般のお経と同じように扱うことが間違っているのです。

　般若心経は「無苦集滅道　無無明　亦無無明尽　乃至無老死　亦無老死尽」と言っていますが、これは仏教教学の中の非常に大切な十二因縁、四諦八正道を真っ向から否定しているのです。十二因縁は無だと言っている。だから、般若心経を仏教の中に入れて読むことが間違っているのです。般若心経を写経して千円を入れて送れば、ご利益があると宣伝している寺がありますが、般若心経を商売の道具に使うのはもっての外なのです。

　般若心経は釈尊が人間存在は空であると悟った内容を、少し論理的に説明しているのです。これが現在日本にあるということは、近い将来、日本が全世界の人間の霊魂のリーダーシップを取ることになるであろうという予見の材料になるのです。

　今、世界の文明は完全に行き詰まっています。文化と言えるほどのものは一つもありません。人間が生きていることが文化の本質ですが、これにタッチできるようなアイディアが全世界にはないのです。

　日本が般若心経の効用を引っさげて、全世界の文化の基礎的なリーダーシップを取るのは、必然的なエネルギーになるでしょう。日本以外に全世界を指導できる国はないのですが、その日本が腐ってしまっている。これは大変困ったことです。しかし、般若心経が日本に保存されているということだけでも、非常に有効な有能な条件になっているのです。

おのずから

　生きている根底は何か。私たちは生まれたいと思わないのに生まれてきたという事実があります。私たちを地上に生み出したエネルギーは何でしょうか。これが「おのずから」です。これが神の実体です。天然と言ってもいいでしょう。天然という純粋のエネルギーが自然になって現われている。天然が大自然を生んでいるのです。これが皆様の霊魂のゆるぎない土台です。これが分かれば死なないのです。

　「おのずから」は死ぬはずがないのです。天然が死ぬはずがないのです。皆様の霊魂はそこから来ているのです。キリスト教ではない聖書の神とは、「おのずから」なのです。「私は有りて在るもの」と聖書にあります。有りて在るものとは、自然に存在しているものという意味です。これが神なのです。

　皆様はこの神を踏まえて、両足でしっかりと生きているのです。皆様の目が見えること、耳が聞こえることはそのまま自然現象なのです。だから、自然現象の本当の意味が分かれば、皆様は死なない命を捉えることができるに決まっているのです。

　日本には明治時代までは現代文明という悪質なものはなかったのです。と言って、私は幕府時代に帰れと言っているのではありませんが、人間の霊魂の本質から考えますと、現代文明は間違っているのです。現代文明は人間が生きているという事実、命という実体に対して全く考えようとしていないからです。

　文明は人間の命に対して全く盲目です。だから、あまり文明を信じ過ぎると、魂が死んでしまうのです。皆様は現代文明を大いに活用すればいいのです。これを靴のように履いたらいいのです。車のように用いればいいのです。しかし文明にかぶれてしまうと、皆様の魂は盲目になってしまうのです。このことをよくお考え頂きたいのです。

（内容は梶原和義先生の著書引用）

しあわせ

般若心経を読んでいる人は、日本にはずいぶんいますが、何のために般若心経を読んでいるのか、分かっている人がめったにいないのです。

　般若心経は、四角い字がやたらに並んでいるのです。読むのは簡単ですけれど、その意味を本当に捉えることが、なかなか難しいのです。

　人間は、現在生きています。生きているということは、命を経験していることなのです。ところが、命とはどういうものかというと、分からないのです。生きていながら、命が分からない。それが世間並の人間です。

　生きているということは、命を経験していることを言うのですが、その命を経験していながら、命とは何かということが分かっていない。人間とは、そういうものなのです。

　聖書に、彼らはなす所を知らないという言葉があります。何をしているのか、本人自身に、分かっていないのです。そのために、人間は死んでいかなければならないことになるのです。

　誰でも、死にたくないに決まっているのですが、他方、死なねばならないと思っている。

　三十歳、四十歳の時は、死ぬのは相当先のことだと思っています。死という問題を、それほどまじめに考えなければならないとは思っていないのですが、六十歳、七十歳になると、そうはいかないのです。だんだん、この世を去る日が、近づいて来るのです。この世を去るということと、死ぬということとは、別なのです。死ぬとはどうなることか。これが分からないのです。

　日本人は、生活のことは一所懸命に考えますが、命のことはほとんど考えようとしていません。人間のつきあいとか、商売とか、会社のことには、一所懸命ですが、自分自身の命の問題について、考えている人はめったにいないのです。

　日本で、般若心経を読んでいる人は、恐らく、一千万人位はいるでしょう。写経をしている人もずいぶんたくさんいるでしょう。しかし、生きていながら命が分からないように、般若心経の意味が分かっている人は、めったにいないようです。

　般若心経を商売道具にしている宗教家はたくさんいますけれど、その意味が分かっていないのです。分かっていないから、般若心経を商売道具に使えるのです。

　日本人は、般若心経を大変愛するのですけれど、般若心経の内容の真意を、ほとんど愛していないことになるのです。

　論語読みの論語知らずという言葉がありますが、心経読みの心経知らずということになるのです。般若心経の本当の意味が分かると、自分自身の生き方が間違っていることが分かるのです。

　般若心経は、無という文字と、空という字を合わせて、二百七十六字の中に、三十五、六字も使っているのです。

　般若心経は、てっとり早く言いますと、空であり、無であることを語っているのです。つまり、人間が生きているそのことが、無であると言っているのです。

　ところが、どういうものか、日本人は般若心経を愛しているのです。愛してはいるけれど、自分自身の人生が空であることを知っている人は、めったにいないのです。これはどういうことでしょうか。

　自分自身の人生が空であることが分かりますと、死ななくなるのです。空であることをはっきり確信しようとしないから、死なねばならないことになるのです。結論的に言うとそうなるのです。

　どうしても自分を空だと思わなければならないのですか、という人がいますが、人間が生きていることが空なのだから、自分自身の人生も空だと考えなければならない。この空が分かれば、死ななくなるのです。ところが、自分自身を空だと考えるのは、人間にとって甚だつらく思えるのです。

　現在の人間は、死ぬに決まっているのです。死ぬに決まっている人間を、空じてしまうことは、死ぬことを空じてしまうことになるのです。これは非常に大切なことですので、もう一度言いますと、今の人間は死ぬに決まっているのです。死にたくないといくらがんばっても、死ぬに決まっているのです。死んでしまうに決まっている自分自身を空として見てしまうことになりますと、死なない自分を発見することができるのです。

　これは宗教ではないのです。この世に生まれてきた人間は、死ぬに決まっているのです。生まれてきたことが、業(ごう)なのです。生まれてきたことを切ってしまうと、業を切ってしまうことになるのです。死んでしまう自分を空じてしまえば、死なない自分を発見することができるのです。

　その意味で、般若心経は、まじめに勉強すべきものなのです。これは宗教ではないのです。

　宗教は、現世に生まれてきた人間に、幸福を与えようとしているのです。この世で幸せな暮しをする。死んでから極楽へ行くというのです。そんなうまい話はないのです。

　生まれてきたことが業ですから、生まれてきたことが間違っているのです。生まれてきたことが間違っているのは、私たちの責任ではないのです。

　人間には、そのような業があるのです。人間の命、地球の命には、非常に悪質な業があるのです。

　生あるものは、必ず死ぬ。形あるものは、必ずこわれる。そのように、現在の人間は、完成された人間ではないのです。肉体的に生きてはいますけれど、魂の命を全く知らないのです。

　文明が根本から間違っているのです。人間の文明は、死んだ人間が造ったものです。文明を造った人間は、誰もかれも、死んでしまったのです。どんなに偉い宗教家も、皆死んだのです。今の人間は、死んだ人間の真似をしているのです。

　学問、学問と大げさなことを言いますが、文明の基礎となっている学問ほど、あてにならないものはないのです。

　何のために学問があるかというと、人間を幸福にするためだというのでしょう。幸福にすると言っても、現世に生きている間に、便利な生活ができるというだけなのです。結局は、死んでしまわなければならない。科学は、死に勝つことはできないのです。

　法律も、哲学も、肝心の宗教でさえも、命を全く勉強していない。自分の商売のために、心経を利用したり、聖書を利用している。これは、商売なのです。本当のことを言っていないのです。本当のことを言えば、宗教ははやらなくなるのです。

　幸福を与えるとか、死んでから極楽へ行くとか、天国へ行くとか、ばかなことを言いますが、死んでからというのは、あてになる話ではないのです。死んでから天国へ行けなかったからといって、牧師さんへ文句を言うわけにはいかないのです。

　宗教は、そういういんちきばかりを言っているのです。現世に生きている人間を、たぶらかすようなことばかり言っているのです。

　般若心経は、そういうことを言っていません。現世に生きている人間は、空だと、はっきり言っているのです。こういうことを言うと、宗教が、はやらなくなるのです。だから、般若心経の本当のことを、説こうとしないのです。お坊さん自身が、分かっていないのです。般若心経の精神が分かれば、寺院仏教は消えてしまうのです。

　本当の聖書が分かれば、キリスト教の牧師は、くびになってしまいます。しかし、宗教ではない、般若心経と聖書を、勉強しなければならないのです。般若心経と聖書を二つ並べますと、宗教にはならないのです。

無常観

　日本人は、なぜ般若心経を愛するのでしょうか。多くの人が、読んだり書いたりしています。なぜでしょうか。

　不思議なことに、日本人は、般若心経に書いてある空という文字が、何となく好きなのです。例えば、日本の王朝文化の時代、今から千年から千二百年前、京都に平安朝があった時代の文化です。そこに、無常観がにじみ出ているのです。

　例えば、鴨長明の方丈記という本があります。それには、人間が家を造って住んでいるのは、水虫が、水の上の泡つぶの中に、住んでいるようなものだと書いています。これが、無常観なのです。

　小野小町の歌に、「花の色は　うつりにけりな　いたづらに　我が身世にふる　ながめせし間に」とありますが、これもはっきりした無常観なのです。当時の日本人には、無常観が相当強くしみこんでいたのです。

　「色は匂へど散りぬるを　我が世誰ぞ常ならむ　有為の奥山今日越えて　浅き夢見じ酔ひもせず」といういろは歌がありますが、色は匂へど散りぬるをというのは、立派な無常観です。無常観が日本人には、伝統的にあったのです。

　今の日本人は、どうかしているのです。エコノミックアニマルと、欧米人に言われているように、生活動物、経済動物になってしまっているのです。生活することに一所懸命になって、命については考えようとしないのです。

　そこで、私たちは、もう一度般若心経を、はっきり見直す必要があるのです。

　空という文字を日本人は、非常に好きなのです。色即是空、空即是色、五蘊皆空という言葉を愛好しています。こういう言葉が、日本人は何となく好きなのです。これは、非常によい点です。

　しかし、好きなだけではだめなのであって、人間の思いが間違っているとすれば、どのような思いが正しいかということを、知らねばならないのです。

　とにかく、今の日本人は皆、死んでしまうのです。死んでしまうだけならいいのですが、この世を去ってから、ひどいことになります。これが怖いのです。

　人間が、この世に生きていることは、非常に尊い生活を送っているのです。自分の自由意志によって、着たいものを着る。経済的に許す範囲で、住みたい所に住んでいます。自分の意志によって、衣食住を選択することができる。これはすばらしい権能です。

　仮に、神が現われたら、今の人間と同じような暮しをするでしょう。神とは、日本の八百万の神とは違います。日本の八百万の神は、人間が造った神です。例えば、乃木希典とか、東郷平八郎が神になっているのですが、これは、人間が造った神であって、名前だけの神なのです。本当の神ではなくて、ただの死人です。

　そういうものではなくて、本当の神とは、心臓が現在動いていることなのです。目が見えることが、神なのです。こういう神を、日本人は、ほとんど誰も知らないのです。キリスト教の人々が、神を知らないのです。

　天にいますわれらの父よと祈っていますが、天にいますとは、どんな神か、実は、はっきり知らないのです。口で言っているけれども、実質的に、それを理解していないのです。聖書を、鵜呑みにしているだけなのです。

　人間が死なねばならないのは、命に対する正しい認識がないからです。正しく認識すれば、魂は死ぬものではないことが良く分かるのです。

　肉体はこの世を去ります。肉体は消耗品です。消耗品だから、この世を去るのはあたりまえです。家でも、車でも、使えば古くなるのです。

　肉体がこの世を去ることと、魂が死ぬことは、別なのです。命の実体をはっきりつかまえれば、魂は死なないのです。

　命に対する見方を正しくすれば、死ななくてもすむのです。そのためには、今までの自分の概念、生活に対する自分の気持ちを、空じてしまうことが必要です。

　般若心経は、般若波羅蜜多とありますように、彼の地へ渡る上智のことを言うのです。彼岸へ渡るというのは、この世の人でなくなることを意味します。

　この世に生きていて、大学教授であるとか、宗教団体の指導者であるという人には、般若心経が分かるはずがないのです。

　般若波羅蜜多とは、この世のことを問題にしない人のことを言います。大学教授は、この世のことを問題にしなければ、月給がもらえません。現在の文明の世界観をもちあげて、世の中に通用するような理屈を並べていなければ、月給がもらえないのが、学校の先生です。また、お寺のお坊さんであり、教会の牧師なのです。この世で、知名度が高い先生である程、般若波羅蜜多とは縁のない人になるのです。

　般若心経と聖書は、宗教ではないのです。この二つをくっつけて勉強しますと、宗教団体ができないのです。

　般若心経は、仏教で用いられています。聖書は、キリスト教で用いられてます。この二つを、どうして一つにしたらよいのか。どんな思想、粘着材をもってきても、ひっつかないのです。一つにすることは不可能なのです。

　ところが、宗教ではないという観点からすると、この二つは一つになるのです。しかも、これを勉強しないと、命は分からないのです。

　世間の宗教は、インチキばかりです。般若心経を仏教的に利用して、お金をもうけている。聖書を、キリスト教的に利用しているだけなのです。これは、商売なのです。はっきり商売なのです。人が何人集った。いくら献金があったということばかりを考えているのです。

　放っておけば、日本人は、全部死んでしまいます。日本人は、死んでしまうに決まっている命しか知らないのです。死なない命を知らないのです。

　命には、死なねばならない命と、絶対に死なない命と、二つあるのです。今の日本人は、死なねばならない命を、命だと思いこんでいる人ばかりが、住んでいるのです。

　人間は、宗教という感覚で、すっかりだまされています。本当の命を、知ろうとしていないのです。だから、生活に行きづまりがあるのです。焼きもちをやいたり、嘘をついたり、不正直なことをしなければ、商売ができないようになっているのです。こういう生き方を、今の人間はしているのです。

　だから、生活には行きづまりがあるのです。うっとうしいこと、いらいらしなければならないこと、おもしろくないこと、心配ごとが、いつもあるのです。命が、まともに信じられていないからです。

しあわせとは

　今の日本人は、しあわせではないのです。しあわせというのは、幸福ではないのです。幸いというのは、偶然になったことをいうのです。例えば、駅へ行った時、ちょうど電車が来た。幸いに電車が来たというのです。

　しあわせというのは、命に対する捉え方、生活の原理が、しあわせであるかどうかなのです。まともな命を、まともに見ているかどうかで、その人がしあわせであるかどうかが分かるのです。

　仕合わせというのは、国語辞典に書いていますが、ＡとＢが仕合いをすることを言っているのです。仕向けることに対して、仕合わせるのです。

　人間は自分で生まれたいと思って生まれたのではありません。自分の意志に関係なく生まれさせられたのです。これは、仕向けられたのです。人間の命の根本は、仕向けられた命なのです。これが分かれば、すぐしあわせになれるのです。自分で造りあげた命ではない、与えられた命なのです。

　仕向けられた命に対して、私たちが本当に仕合わせになりたいと思ったら、仕合わせるような気持ちになればいいのです。そうすると、私たちの生活が、すぐに合理化されるのです。

　自分に命を与えてくれている天地の原動力があります。天地のエネルギーがあります。このエネルギーの原理を弁えて、合理的な生活を送ることなのです。そうすれば、死ななくなるのです。イエスが、こういうやり方で死を破ったのです。これが、イエスの復活なのです。仕合せることができれば、悲しみとか、苦しみがなくなるのです。

　人間は、自分が生きている命が、死ななければならないものだということを、自分でよく承知しています。百人が百人共、千人が千人共、知っているのです。

　現世に生きていることは、死ななければならない命を生きていることを、よく承知していながら、現世に生きている命は本物だと思いこんでいるのです。これが、おかしいのです。

　死ななければならないことが分からないなら、現世に生きている命が本当の命だと考えてもしかたがない。多分、犬や猫は、現世に生きている命が、本当の命だと思っているでしょう。それは、死ななければならないと思っていないからです。

　犬や猫には、死がありません。やがて、動かなくなることはあります。これは、死ぬのではないのです。生きている命の状態がなくなるだけなのです。走ったり、歩いたり、物を食べたりすることが、なくなるだけなのです。生きている状態が、消えてしまうことなのです。

　人間の場合は、死ぬのです。人間が生きているのは、命を心得て生きています。生命意識を持って、生きているのです。理性と良心が人間の心の中心になって働いていますので、人間は自分の心で、自分が生きていること、また他人が生きていること、天地自然が生きていることを、知っているのです。

　花が咲いているのは、花が生きていることであって、花を飾ることを、花を生けると言います。生けるとは、花を生かすことなのです。人間は、命を知っているのです。知っているから、花を生かすことができるのです。

　そのように、命を知っているものが、この世を去りますと、死ぬことになります。犬や猫は、命を知らないので、この世を去っても、死んだことにはならないのです。

　生きている間に、命とはどういうものかを心得ていますと、死ななくなるのです。

　般若心経の、般若波羅蜜多は、そういうことを言っているのです。般若とは何かと言いますと、上智、常識ではない上等の知恵をいうのです。つまり高等な知恵です。唯識論では、阿頼耶(あらや)識(しき)とも言っています。阿頼耶識とは、普通の常識ではない、高等な知恵のことを言っています。

　普通の人間の常識では分からない知恵で考えると、向う岸へ渡ることができるというのです。向う岸とはどういうものかと言いますと、普逓の人間の住んでいる所は、陸です。陸の外は、海です。そして、海の向うに、また陸があるという思想なのです。

　昔は、海の果て、世界の果ては、恐ろしい大きな境があって、その底に、地獄があると考えたのです。これが、海の果て、地の果てだと思っていたのです。

　今の日本は陸地ですが、その外に海があって、この海のかなたには境があって、海がおちている。それで海が終りだと考えていたのです。地球が平面だと思っていた。丸いものだと思わなかったのです。その時に、彼岸という言葉ができているのです。

　陸地があって、海があって、その向こうにもう一つ陸地があると考えた。これが彼岸なのです。そこへ渡るというのは、死なない命を見つけることを言っているのです。これが、般若波羅蜜多ということになるのです。

　人間が、今生きているのは、こちらの岸にいるということです。これは、第一の岸です。第一の岸から、第二の岸へ渡ることが、般若波羅蜜多です。

　海とは何かと言いますと、空になるのです。つまり、第一の岸にいるものが、一度自分を空じてしまう。そうすると、第二の岸を見つけることができると言っているのです。

　第一の陸にいる状態のままで生きていると、必ず死んでしまう。海を渡って、向こうの岸へ行けば、死なない陸地を見つけることができると、釈尊は考えたのです。これが、本当の仏法なのです。

　仏法というのは、仏教ではなくて、悟りを開く方法、悟りを開く道をいうのです。日本には、日蓮とか、親鸞とか、弘法大師、法然、道元とかいうお坊さんがいまして、釈尊の悟りを勉強して、教えをつくった。これが、仏教になっているのです。

　同じ仏教でも、親鸞と道元とでは、考え方が全然違います。道元は、自分自身を空じること、仏の子になることが、悟りだと考えた。親鸞は、他力本願、阿弥陀如来を信じること、阿弥陀如来の名号を念仏することが、般若波羅蜜多になると考えた。同じ般若波羅蜜多でも、考え方が、全然別になっているのです。

　これを、つきつめて考えると、実は、禅宗で考えている自力というものも、浄土真宗で考えている他力というものも、同じことになるのです。左から見た場合と、右から見た場合とでは、景色が違うのです。左から見た場合の見方を他力と言い、右からの見方を自力と言っているのです。しかし、これは仏教であって、釈尊は空だけを教えているのです。

　釈尊の悟りは、自力でも他力でもないのです。自力でも他力でもない本当の空という仏法の教えは、日本にはないのです。日本では、すべて、自力か他力のどちらかになっているのです。自力、他力という言葉を使わない所もあります。例えば、真言宗等は使いません。やはり、他力という方が多いように思われるのです。

　純粋の釈尊の悟りは、日本にはないのです。釈尊の悟りは、第一に陸にいれば死んでしまうから、そこを出てしまうことだと言っているのです。

空

　海へ出ることが、空なのです。ここまでは釈尊は教えたのです。しかし、海の向こうには、第二の陸地がある。その陸地はどういう陸地かということを、はっきり教えていないのです。向う側にある陸を、観無量寿経は、極楽浄土という言い方で、にぎにぎしく書いています。春、夏、秋、冬、四季おりおりの花が咲いて、すばらしい浄土があると言っています。

　三部経とは、観無量寿経と、大無量寿経、阿弥陀経の三つを言うのですが、観無量寿経はつくりごとであって、本当のものではないということを、今の仏教家の多くの人が言っています。大無量寿経と、阿弥陀経の二つを勉強することが中心であると、日本の他力宗は考えていますが、結局、向こう岸はどういうものかを教えていないのです。

　ところで、人間は、死なねばならないことが分かっていながら、死にたくないという本心があるのです。つまり、死にたくないという気持ちがあることが、人の中に彼岸があることを意味するのです。

　死にたくないというのは、第二の陸地へ行きたいという気持ちなのです。第二の陸地が、死なない国なのです。第一の陸は、死ぬに決まっている国なのです。死ぬに決まっている国に、今、生きているが、死にたくない。第二の陸地へ行きたいと思うのです。

　そのためには、一度海を渡らなければなりません。日本からアメリカへ行こうと思えば、太平洋を渡らなければならないのです。般若心経は、このことを言っているのです。海へ出なければ、陸へ行けませんと言っているのです。

　これが、難しいと思えるのです。それは、第一の陸地にいる状態で、第二の陸地へ行きたいと考えるからです。これは、無理なのです。

　日本は日本です。アメリカはアメリカであって、日本とアメリカとは、言葉が違うのです。今の命ではないもう一つの命になりますと、根本から考え方が違うことになるのです。それを見つけるのです。

　今、人間が住んでいる陸地は、現代文明という陸地なのです。これは、人間が造った理屈が通用する国なのです。人間が造った学問、人間が造った理屈は、文明でしか通用しないのです。人間の息が切れますと、この世の常識、学問は、一切通用しないのです。

　文明が通用しない所が、第二の陸地なのです。これは、人間が造った世界とは違うのです。神が造った世界、神本位の世界です。

　第一の陸地は、人間本位の世界です。人間本位の世界から、神本位の世界へ行くことです。神本位とは、嘘も理屈も一切ない世界です。人間の世界では、理屈は通用しますけれど、神の世界では通用しないのです。事実だけしか通用しないのです。神の国では、本当の真実だけしか通用しないのです。

　本当の真実を知ろうと思いますと、一度、頭から、人間の理屈を追い出してしまわなければならない。これが、般若心経の功徳なのです。五蘊皆空、色即是空は、すばらしい功徳なのです。

　しかし、空とは何か恐ろしいような感じがするのです。自分自身を空じてしまう。自分の思いを自分が捨てることが、非常に難しいような、危険な感じがするのです。

　ですから、般若心経をいつも読んでいる人でも、本当に空が実行されている人が、めったにいないのです。空は、理屈が分かっただけでは、だめなのです。実行しなければだめなのです。目の前に、どんな立派なごちそうが並んでいても、食べなければ味わえないのです。ごちそうを眺めているだけでは、お腹は膨れないのです。

　そのように、般若心経の言っていることは、色即是空という理屈をいくら承知していても、自分自身が色即是空を実行する気持ちにならなければ、本当の空は分からないと言っているのです。

　般若心経の説明書は、たくさんあります。それは、仏教で飯を食べている人、または、そういう立場で書いたものであって、これは皆、嘘なのです。理屈の説明だけをしているのです。

　色即是空とは、目に見えていることは、嘘なのだという説明をしている。こんなことは、言われなくても、色即是空という字をよく見れば分かるのです。色とは、現象している物質のことです。目に見える現象世界はないということが、色即是空なのです。この理屈は、お坊さんに言われなくても分かるのです。

　ところが、問題は、自分が現在生きている気持ちが、本当にからっぽの気持ちになれるかどうかです。

　仏教ではだめなのです。仏教で色即是空を本当に考えますと、寺があることが空なのです。お坊さんが衣を着て、お袈裟をかけていることが、空なのです。五重の塔を建てるとか、立派な金堂を建てることが、空なのです。

　ところが、現在の仏教では、そういうことを、大変奨励しているのです。般若心経を写経して、千円をつけて送ると、ご利益があるというのです。送りたい人は送ってもいいのですけれど、そんなことをしても、千円損をするだけなのです。郵便代もかかりますから、千円以上も損をします。功徳があるかというと、功徳は一つもないのです。

　今の仏教は、ただの宗教ですから、どんな宗派の教えも、すべて人間が造った理屈なのです。この世では通用します。この世では、神社仏閣がありますから、宗教の考え方は通用しますけれど、死んでしまえば、一切通用しないことになるのです。

　こんな分かりきったことが、今の日本人には分からないのです。宗教の教えが、死んでからも通用すると思っているのです。

　仏国浄土へ行くとか、死んでから天国へ行くことが、もし通用しないのなら、キリスト教や仏教を信じる人は、一人もいないのです。通用すると思うから、信じるのです。通用すると思うのは、生きている間にそう思うだけのことであって、死んでしまえば一切通用しないのです。

　釈尊は、そんなことは一切言っていません。人間が考えていることは、全部空だと言っているのです。これは本当です。

　やがて死ぬに決まっている人間の考えることは、空に決まっているのです。分かりきったことです。釈尊が言わなくても、誰でもすぐ分かることなのです。死んでしまうに決まっている人間の言っていることは、全部空なのです。

　これを、はっきり言いますと、今の仏教は商売にならないのです。空を教えるためにお寺があるとすれば、わざわざ寺へ行かなくても、自分の家で空だと言っていればいいのです。お寺へ行かなければ、空だと言えないのではないからです。

　般若心経は、今住んでいる世界から、海へ出ることを提案しているのです。ところが、人間は、海へ出るのを嫌がるのです。第一の陸にいるままの状態で、第二の陸へ行きたいと考える。これはできないのです。できないのに、できると教えるのが、宗教なのです。これは嘘です。

　海へ出るにはどうするか。今までの自分の考えを捨ててしまうのです。常識的に考えていた自分の命が、間違っているのです。死んでしまう命を、命だと思っていたのです。この世の命と、本当の命とは、違うのです。

　例えば、靴をはいていて、その上にもう一足はこうとしても、できないのです。

　そのように、第一の陸にいる人が、そのままで、第二の陸へ行こうとしても、無理なのです。

　現在、第一の陸にいる人が、海へ出ることは、死んでしまうことではないのです。息が止まってしまえば、考えることができなくなります。そこで、息が止まるまでに、目が黒い間に、空を自分の中へ持ってくるのです。または、自分自身が空の中へ入ってしまうのです。

　空が、人間の本当の持ち味なのです。目で物が見えるのは、あたりまえと思っていますが、物が見えることが、不思議なのです。自分の力で、自分の目を造ったのではありません。耳を、自分の力で造ったのでもありません。

　ところが、目の力とか、耳の力が、私たちに備わっているのです。これを先天性の命というのです。先天性の命は、死なない国の命なのです。

　生まれる前に、その命は与えられていたのです。それを持って、この世へ生まれてきたのですが、この世に生まれてから、物心がついて、生まれる前の命を、すっかり忘れてしまったのです。この世の常識、知識が、あたりまえだというように考えこまされてしまったのです。これが人間の迷いなのです。

　この世に生まれてから、人間は、迷いの中へ引きずりこまれてしまったのです。この世に生まれてからの迷いの気持ちが、自分を盲にしているのです。盲にしている自分の思いを捨ててしまうことが、海に出ることなのです。

　般若心経は、海へ出ることであり、聖書は向こう岸へたどりつくことなのです。これは本当の事ですから、今の文明を信じてはいけないのです。

現在の文明は間違っている

　神の言葉にパン種を入れますと、つまり宗教観念を入れますと、全く変ってしまうのです。酒を造る場合にも、酒の種のようなものを入れるようですが、とにかく、米が酒になってしまうように、物が変ってしまうのです。ダンゴとパンとでは、全然違います。餅とパン程違うのです。

　イエスは、宗教思想のことをパン種という言い方をして、大変嫌ったのでした。そのために、宗教信者に殺されたのです。イエス・キリストを殺したのは、宗教家です。これをよくご承知頂きたいのです。

　ところが、現在のキリスト教は、イエス・キリストをご開山のように拝んでいるのです。これは全くおかしな話です。

　もし、もう一度イエス・キリストがやってきたら、今のキリスト教は、片っぱしから踏みつぶされるでしょう。たたきつぶされるでしょう。

　お釈迦さんもその通りです。お釈迦さんがもう一度やってきたら、今の寺は片っぱしから焼かれるでしょう。大僧正の金襴の衣もだめです。踏みつぶされるに決まっているのです。

　現在、仏教家は何を講義しているかと言いますと、今の寺の偉いお坊さんは、ほとんど仏教大学を卒業しているのです。仏教大学で、般若心経はこのように説明するのだということを授業で教えられて、それをそのまま話しているのです。

　今の偉いお坊さんたちは、釈迦の弟子ではなくて、学者の弟子なのです。大学教授の弟子なのです。お釈迦さんの弟子ではないのです。

　現在の寺のお坊さんは、自分の寺の経営とか、自分の宗教を拡張するとか、お金をもうけるとか、商売を繁盛させるとか、そういうことに大変熱心なのです。こういうものが、宗教なのです。そういうものがいけないと、私は言いたいのです。

　現在のキリスト教は、それと似たりよったりです。もっとひどいかもしれません。

　現在の文明は、大変間違っています。人間の肉体生活を助長することばかりを考えているのです。

　日本語で文明と訳している言葉は、英語でシビリゼーションと言いますが、これは、市民生活、公民生活という意味になるのです。これは、生活一辺倒で人間が肉体的に生きておりさえすればよいという考えに、固っているのです。

　例えば、皆様方の現在のお考えの基本になっているのは、近代文明の思想だと思いますが、それは、一に生活、二にも生活、三に商売、四に家内繁盛というわけです。なんでもかんでも、現象世界における自分の生活の安全ばかりを考えているのです。

　この思想は、大変間違っているのです。般若心経は、これをこっぱみじんに粉砕する思想なのです。五蘊皆空という思想は、そういうものなのです。

　人間の考え方が、なぜこんなに間違ってしまったかと言いますと、宗教が腐ったからなのです。ヨーロッパのキリスト教が腐ってしまった。その結果、軽薄思想、啓蒙思想が台頭してきまして、自我の発見、自我の拡張、自我の確立を主張しはじめて、人間は大変に偉くなったのです。

　これが主知主義の文明です。主知主義というのは、知性とか、人間の思い、思想、理論を重んじる文明の中心思想です。主知主義の文明の特徴は、主我主義です。主我主義とは、自我主義という意味です。

　主我というのは、我という人格が主人になるのです。主知主義の文明は、主我主義の文明になるのであって、現在の日本人も、主知的な思想、主我的な思想に固ってしまっているのです。

　これは大変恐ろしい思想でありまして、宗教が腐ったから、このようになったのです。ヨーロッパのキリスト教が腐って、西洋文明ができました。それが世界中に広ったのです。

　もし、キリスト教が腐っていなかったら、今日のような文明は、恐らく現われていなかったでしょう。

　文明と言いましても、電車に乗るとか、飛行機が飛ぶということは、これも文明の一つではありますけれど、そういう交通機関とか、電気製品とか、通信機械とかいうものはあってもよいのですが、問題は、政治思想、経済思想というものが悪いということです。

　どうして悪いかと言いますと、人間は現世に生きるためにだけ生まれてきたのではないからです。政治思想、経済思想は、人間が現世においてだけ生きればよいと思わせてしまうからです。

肉体は滅びるが魂は滅びない

　人間の霊魂は不滅ですが、今の人間は死んでしまうに決まっているのです。

　肉体は消耗品です。魂の消耗品です。魂が発育するため、魂が成長して一人前になるために、肉体という消耗品を食いつぶすのです。これが肉体の使命なのです。肉体が重要なのではなくて、魂が重要なのです。

　生活一辺倒の思想は、肉体の方を重要視してしまっている。これを聖書では肉の思いと言っています。肉の思いは死であると言っているのです。

　肉体本位、生活本位の考え方を持っているということは、自分自身を死に追いやっていることであると言っているのです。

　先日ある所で、こういう話をしていましたら、あまり死ぬということを言ってくれるなという発言がありました。私も言いたくないのですが、死ぬということよりも、生きることをお話ししたいのです。

　生活一辺倒の生活感覚で生きていることは、生きているのではなくて、死んでいるのです。

　その状態で目をつぶってしまいますと、大変なことになります。

　肉体は消耗品ですから、やがて消耗するに決まっています。誰でも消耗します。現世を去りますが、現世を去るというのは、眠るだけのことなのです。つまり、ご永眠あそばすだけのことなのです。これはたいしたことではないのです。ところが、その後が怖いのです。

　眠ったものは、かならず起きるのです。目をさますのです。ある時期がきますと、今まで死んだ人間が、全部一斉に目をさまします。必ずそうなるのです。

　聖書ではこのことを、復活の時と言っていますが、これは必ず来るのです。今までに死んだ何百億の人間が、全部一度に生き返るのです。

　現世で、正しい暮らしをしていた者は、正しい報いを受けるために生き返る。そうでなかった者は、悪い報いを受けるために生き返る。そうなるに決まっているのです。

　人間は死んだらしまいという考えが一般的になっていますが、それは間違っています。

　例えば、三島由紀夫は切腹して死んだのですが、彼の生前の友人であった人が、霊媒に頼んで、三島由紀夫を呼んでもらったのです。今何をしているのかと聞いたところ、三島由紀夫は原稿を書いているというのです。死んだ人間に原稿を頼むというのはおかしいのですが、どこの会社に、どこの出版社に頼まれたのかと聞いたところ、黙ってしまったそうです。どこから頼まれたのか分からないが、やはり原稿を書いているというのです。

　このように、死んだ人間は、顕在意識はなくなるのですが、潜在意識はなくならないのです。潜在意識が魂なのです。これはなくならないのです。

　皆様がおやすみになりますと、顕在意識はなくなります。人事不省の状態になります。しかし、潜在意識は働いているのです。これが、夢を見る原因になると思われますが、死んだらしまいになるという考え方は、自分自身の霊魂に対して、非常に無責任な考えなのです。

　般若心経を勉強している方でも、死んだらしまいだと思っている人がいます。これはまともに勉強していないからそういう考えになるのでしょう。

　般若心経は、現世が空である、現世の生活が空であるということを言っているのです。波羅蜜多ということは、向こう岸へ渡るということで、死んだ後の世界へ渡ることなのです。目の玉の黒いうちに、死んだ後の世界へ渡ってしまうのです。そうすると、死ななくなるのです。

　聖書では、永遠の生命がイエスによってはっきり言われています。私を信じる人は永遠に死なない。永遠に死なないとイエスが断言しているのです。

　イエスは、十字架につけられて死にましたけれど、三日目に復活しました。その記念日が日曜日なのです。皆様が、日曜日に仕事をお休みになっていらっしゃるのは何のためかと言いますと、イエスの復活を記念するためなのです。

　七日目ごと、一週間に一回ずつ、今、全世界の人が、イエスの復活を記念しているのです。

　そんなことは知らないと日本人は言われるかもしれませんが、知らなくてもこれは歴史的必然性なのです。

　世界中の人間が、イエスの復活を七日目ごとに記念しているという事実があるのです。イエスが生まれたことが、暦年算定の基準になっているのです。

　こういう事実は何を意味するかと言いますと、イエスが復活したということは、人間は死んでしまうものではないことが、歴史的に証明されたということなのです。

　人間は死んでしまうものではない。その人の考え方によっては、死を克服することができるのです。永遠の命をはっきりつかまえることができるということが、イエスの復活によって、歴史的に証明されたのです。

　私たちは、歴史的必然性によって、日曜日という復活記念日を休んでいることになるのです。こういうことをよくお考えになりますと、現在の日本人の常識は、随分間違っていることが分かります。

　キリスト教も仏教も、誠に無責任です。永遠の生命の実物を、皆様方に差しあげようとしていないのです。これはけしからんことです。お金ばかり取っているのです。般若心経を一枚写経して、千円をつけて送るとご利益があるというのです。これが宗教というものです。

人生の目的は何か

　人間は、現世に何のために生きているのか。これを簡単に申し上げたいと思います。人間は、商売をするために生きているのではありません。

　ご年配の方々によくお考え頂きたいのですが、七十年か八十年間現世に生きていたとします。一体何をしてきたのかということを冷静にお考えになりますと、何をしてきたのかさっぱり分からないのです。

　働いて、息子や娘を産んで育てはしたのもの、その息子や娘が、本当の意味で相談にのってくれるわけでもない。

　何のために息子や娘を苦労して育ててきたのか、何のために商売をしてきたのか、何のために生きてきたのか何回もお考えになることがあると思います。

　働くのはもちろん結構ですが、何のために働くかと言いますと、一つは生活するためです。お金をもうけて生活をするためです。もう一つは、働くことを通して、人と人との関係がおのずから発生致します。人と人との関係において、五蘊皆空という意味での悟りを得るチャンスが多くあるのです。

　人と接触することによって、私たちは他人の気持ち、自分の気持ちを触れあわせるのですが、この魂の触れあいによって、私たちは五蘊皆空、色即是空がおのずから悟れるようにできているのです。素朴であれば、それが分かるようにできているのです。

　聖書は、新しく生まれることを教えています。現在、生きている人間の命は古い命であって、新しい命、神の命、宇宙の命を獲得するために、人間は生きているのです。

　神の国へ入ることが、聖書の目的です。これは、死んでから天国へ行くということではありません。現在生きている間に、神の国をはっきり確認すること、生きている間に神と出合うことが、聖書の目的です。

　皆様が生きておいでになるということは、神に出合うためであり、般若波羅蜜多、即ち向こうの岸へ渡る知恵を獲得するためです。

　そういうことのために生きているのですが、つい忙しくて般若心経の勉強をしている暇がないということをよく言われます。忙しいには違いありませんが、仕事をすることにおいて、悟りの境涯がなければならないのです。

　禅にある話ですが、長州という和尚がいました。ある時、一人の人が尋ねてきまして、道場はどこですかと聞きました。

　長州和尚が、あなたはどこからきたのかと聞いたのですが、その人は、私は家から来ましたと答えました。それで、どこへ帰るのかと聞きますと、家まで帰りますと答えたのです。それなら、あなたは道場から出てきて、道場へ帰るのではないか。それでもあなたは道場が分からないかと長州和尚が答えたというのです。中国宋代に編まれた「公案集」の無門関四十八則の中の一つなのです。

　皆様方の家庭、皆様方の職場が、そのまま道場なのです。道場というのは、悟りの場のことです。悟りを開く場のことです。人間生活は、こういう形で道場としてあるのです。

　嫁、姑の関係も、親子の関係も、兄弟の関係も、夫婦の関係も、友人の関係、得意先と店との関係も、すべて人間関係は道場という形でできているのです。

　ですから、生きていることを有効に用いるなら、皆様方は永遠の命をつかまえることができるのです。

　死ななければならないことはないのです。イエスが死を破ったように、私たちも死を克服することができるのです。

　死ななければならないという思想をやめて頂いて、命とは何であるかということを勉強して頂きたいのです。

（内容は梶原和義先生の著書引用）

あとがき

般若心経は三蔵法師玄奘の訳ですと、観自在となっています。鳩摩羅什の訳ですと、観世音になります。これは同じことであって、観自在とは自在を見るのです。観世音は世音を見るのです。音を見るのです。音は見えないものですが、これを見るのです。

　白隠禅師は、人間がもし愛憎煩悩を去ってしまえば、誰でも観世音菩薩になれると言っています。そのように、もし人間が愛憎の念を去って、煩悩を解脱すれば完全と言えるのです。

　世音とは世の音です。人間は現世に生きている以上は、それぞれ自分なりの考えを持っているのです。現在の政治をどう思うとか、経済をどう思う、教育をどう思うとかそれぞれの意見を持っています。これは世音を見ているのです。

　観世音とは、この世の中ができている実相、真相を見るのです。人間が生きているのは世音の中で生きている。商売をしても、仕事をしても、世音と世音の中で生きているのです。

　その時、その時に世音を見ているし、また感じているのです。生活のためにそうしているのです。

　ところが般若心経になりますと、生活のためにそうするのではなくて、命のために世音を見ることになります。人間がこの世に生きているのは、大きな意味があるに決まっています。この世に生まれてきた目的がなければならないのに決まっているのです。

　今の日本人は、そういう目的を考えないで生活のために生きている。ほとんど全部の人が、そういう考えをしているのです。政治家ならそれでもいいかもしれませんが、人間として生きている以上、自分の人生について責任を持たねばならないのです。

　人間がこの世に生まれてきたことが、業なのです。これがうるさいのです。業が世音になって見えるのです。親から受け継いだ業、社会の業、学校の業、何でも生きていると業がついて回るのです。若い人は若いように、年寄りの人は年寄りのように業がついて回るのです。

　この業を見きわめて、その主体は何であるかを見破って、業を果たしてしまわなければ死んでしまうことになるのです。死ぬのはしかたがない。どうせ人間は死ぬと簡単に言いますけれど、死ということが本当に分からないから、すましておれるのです。

　本当の観世音になりますと、業の正体が分かるのです。死の正体がはっきり分かるのです。そうすると死ななくなるのです。死ななくなる所まで世音を見破ってしまう。世音を看破してしまうのです。そうすると死なない人間になってしまう。これが本当の観音さんなのです。

　自分の世音を見破ってしまいますと、人間の愛憎煩悩が消えてしまうのです。そうして、愛憎煩悩の向こうへ出てしまうのです。これが般若波羅密多です。般若波羅密多になりますと死ななくなるのです。

　死ぬのはしかたがないと言いながら、死ぬのはいやに決まっています。いやならいやとはっきり考えるのです。そうすると、死ななくてもいい方法が見つかる可能性が出てくるのです。死にたくないのに死ななければならないのは、殺されるということです。

　日本中の人間、もっと広く言えば世界中の人間は皆、殺されるのです。人間の業に殺されるのです。死ぬのは人間の業です。これを突破することはできるのです。観世音はこれをしたのです。その方法が般若心経に出ているのです。

　照見五蘊皆空　度一切苦厄とは、一切の苦厄を乗り越えてしまうこと、死を乗り越えてしまうことです。これが観世音菩薩の所行です。観世音菩薩は、悟りを開いた人の抽象人格です。観世音には誰でもなれるのです。そうすれば死を乗り越えられるのです。五蘊皆空　度一切苦厄を実行すれば死を乗り越えて、死なない人格になることができるのです。

　そんな難しいことはできないと思う人は、自分の今までの考えに束縛されているからです。人間は、今までの経験について束縛されてしまうような弱点があります。向こう岸へ渡ってしまえば、そういう弱点と関係がなくなるのです。向こう岸へ渡るとは、別の人間になってしまうことです。今まで生きていた人間が、本当の空を悟ることになりますと別の人間になってしまうのです。

　空とは、何もないからっぽとは違います。大きな実があるのです。空の実体は、宇宙生命の一大事実なのです。言葉を変えて言いますと、これが真の神なのです。空を見るとは神を見ることです。観世音を見るとは神を見るのと同じことなのです。

　世音とは人間の業であって、自分の業をはっきり見きわめますと、自分ではない自分の姿が見えてくるのです。これが観自在です。

　観自在とはどういうことか。自在とは自由自在のことで何ものにも捉われないことです。現在の地球に生まれてきた人間は、自由自在というわけにはいかないのです。地球以外に住む所はありません。例えば、男として生まれた人は男でなければならないのです。女は女でなければならない。生年月日を変えることはできないのです。

　そのように、現世に生まれたということは、自在ではないことを意味するのです。地球ができた以上、人間は地球でなければ生きられないようにできているのです。本当の自由自在があるとすれば、地球ができる前のことなのです。地球ができる前には、時間もない、空間もない。従って五十歳とか六十歳とかいう年齢もないのです。男もない、女もない。これが自在です。

　観自在とは、地球ができる前の人間に帰るというすばらしい意味もあるのです。自在の自とは初めからという意味です。初めとは地球ができる前のことです。今の学者は、四十五億年前に地球ができたと言っていますが、それ以前には地球はなかったのです。従って人間もいなかったのです。生まれる前の本当の人間の姿が、自在です。

　この世に生まれて、この世の業の虜になって、男だ、女だ、得をした、損をしたと言っているのは、自在ではないのです。そういう者に関係がない生まれる前の状態が、自在なのです。観自在というのは、生まれる前の自分を見るという雄大な思想なのです。

　イエスはこれを見せてくれたのです。生まれる前の自分が今ここにいると言ったのです。イエスは「よくよくあなた方に言っておく。アブラハムが生まれる前から私はいる」（ヨハネによる福音書８・５８）と言ったので、当時のユダヤ人たちはイエスが気違いだと思ったのです。アブラハムはイエスより二千年も前に生まれた人です。そのアブラハムより前からイエスはいると言ったので、人々は全く理解できなかったのです。

　イエス・キリストは、観自在を文字どおり実行して見せたのです。

　今までの勉強、経験にこだわらないで、幼児時代の気持になって、たんたんとして物を考えるという気楽な人になれば、観自在が十分に分かるのです。五十歳とか七十歳という年齢はありません。あると思う方がどうかしているのです。何十年か生きている自分は、どこにも存在していないのです。摩訶般若波羅密多から見ればそんな人間はいないのです。

　禅に「闇の世に　鳴かぬからすの声聞けば　生まれる前の父ぞ恋しき」という道歌があります。生まれる前の自分の魂を見きわめることが、本当の悟りであると言っています。禅にはこういう歌はありますが、この悟りはありません。

　しかし観自在という人格はなければならない人格なのです。観自在にならなければいけないのです。そうすると自分が死ぬという因縁を乗り越えてしまうことができるのです。業を果たすことはできるのです。業を果たさなければ、必ず死んでしまいます。死んだらしまいと思うのは、大間違いです。死んでからが大変なのです。

　人間は本来、観自在になるために生まれてきたのです。ところが商売人になったり、会社員になったり、学者になったり、弁護士になっている。そんな事のために私たちは生まれてきたのではありません。商売人や会社員になってもいいのですが、本職は自分の業を果たすことです。生活をするために、ちょっと働いてみようかというだけのことです。

　働きながら観世音の道を歩むのではなかったら、何にもならないのです。お金を儲けて楽しく生活をしながら観世音になるのです。これは難しいことではないのです。むしろ、働くということは立派な道場なのです。寺で座禅をするより働いている方が、よほど悟りやすいのです。汗水流して働く方が、よほど功徳があるのです。

　私たちは現世に生きるためではなくて、観自在になるために生まれてきたのです。その意味で、イエスが生きていた生き方は偉大な参考になるのです。

　釈尊は悟ったが、そのまま死んでしまいました。イエスは死ななかったのです。死を乗り越えたのです。日曜日はイエスが復活した記念日なのです。イエスは、歴史的事実において死を乗り越えたのです。

　本当の観世音をしたのです。イエス観世音と言えるのです。千手観世音とか十一面観世音がありますから、イエス観世音があってもおかしくはないのです。イエス観世音になったらいいのです。これは歴史的事実なのです。

　イエスが死を破ったことは、歴史において証明されているのです。これは宗教ではありません。キリスト教では復活をはっきり説明しません。現在の科学ぐらいではイエスの復活の説明はできません。

　とにかく歴史的事実を勉強すれば、私たちも歴史的に死を破ることができるのです。現世で人間は好きな物を食べて、好きな服を着ることができます。これはぜいたくな事です。神が肉体を持てば人間と同じ生活をするでしょう。だから悟りを持つ責任があるのです。世間の人が考えているのと同じ考えでいると、ひどいことになります。この世に生まれてきたのは、それだけの責任を負っているのです。

　今までの経験を棚上げして白紙に戻って、愛憎煩悩を去って観世音菩薩になるという気持を持ったらどうでしょうか。これをするには仏教だけではだめで、聖書の助けがどうしてもいるのです。

　白隠が言っていた観世音と、現在私たちが考えている観世音とは違うのです。白隠は死を破るとは言っていませんが、私は死を破る観世音を言っているのです。白隠禅師よりも大きい観世音を勉強しなければならないのです。

（内容は梶原和義先生の著書引用）